necco note
時間記録はいいぞ 〜Focus To-Doで充足感あふれる毎日を〜
- Workflow
2023年、私はneccoでCTO兼フロントエンドエンジニアをしながら、専門学校の外部講師をつとめ、さらに本を一冊書き上げました。そのかたわら、STUDIOのユーザーフォーラムにTips記事を投稿したり、個人開発アプリをメンテナンスしたりもしていました。そして主婦として、毎日、自炊や洗濯などをこなし、老猫の介護も行っていました。私よりも忙しそうな人はたくさんいるものだとは思うものの、1日が24時間しかない中で、これらの膨大なタスクをこなすのは私にとって大変なことでした。
そんな私の支えになっていたのが「時間記録」でした。その内容はシンプルで、やるべきことをリストアップしたら、そのタスクごとにかかった時間を計測、記録していくというものです。
身体が「食べたもの」で作られるとしたら、人生は「やったこと」で作られると思っています。時間を記録していくことで、毎日の自分の行動を可視化できるようになり、客観的に振り返れるようになります。
GTDなどタスクの管理手法は色々ありますが、私の経験上、タスク管理には小さな罠がありました。それは、タスクをリストアップした時点で何かをやり遂げたような心理になってしまうことです。例えば「書籍◯◯を読む」と書いただけで、読んでもいないのに、何かをしたような気になってしまいます。また、積み上がったタスクの数に圧倒され、絶望的な気持ちになることもありました。生産的に行動するためのタスク管理ツールによって、本来の趣旨とは異なる影響が与えられているのを感じていました。
そんな時に出会ったのが「時間記録(計測)」です。タスクごとに、それにかけた時間を記録することによって、意識が「やるべきこと」から「やったこと」に向くようになりました。自分が「やったこと」を意識することで、前述のGTDの罠にも引っかかりにくくなり、それ以上に、過去を振り返りやすくなり、日々の行動を改善しやすくなりました。
何事も、取り組まないことには永遠に完成しませんし、できるようにはなりませんが、先が見えない道のりはつらいものです。この時、自分がどれぐらいの時間をかけて何をしていたかに着目する時間を作れば、遠いゴールに向かって歩いていても、自分がどこまで歩けているのか、向かうべきところに辿り着けそうかが見えやすくなります。
Focus To-Doで時間を記録する
時間記録できるアプリは多数ありますが、私が現在メインにしているのは「Focus To-Do」です。
Focus To-Doは、ポモドーロ・テクニックのために作られたアプリです。ポモドーロ・テクニックとは、時間管理の手法の一つです。作業時間を「ポモドーロ」と呼ばれる単位(一般に25分)に分割し、その間は集中して作業に取り組みます。そしてポモドーロの終了後に短い休憩(5分)をとり、休憩が終われば次のポモドーロを始めます。そして、4回のポモドーロが終わったら、長い休憩(15〜30分)をとる、というものです。集中と休憩のメリハリによって、タスクを効率よくこなしていけるそうです。
…しかしながら、私にはポモドーロは合いませんでした。集中している時に中断を強いられるのは不快ですし、再び集中するのが難しいからです。このため、いまでは、このアプリはただ時間を記録するためだけに使っています。
下記がこのアプリを選んだポイントです。
- Mac、iPad、iPhone、Apple Watchに対応している(Android / Windowsにも対応)
- 入力したデータを、月別のグラフや日別のタイムラインなどで振り返れる
振り返りの際にデータを見通しやすく、また、スマホ版アプリのUIが好みだったのでこのアプリに落ち着きました。
私はMacで作業することが多いため、主にMacアプリで計測しています。もちろんスマホ等でも同様に計測できます。
基本設定する
ポモドーロではなく時間記録ツールとして利用するため、設定を変更します。
経過時間を計算しやすいように、1ポモドーロを30分に設定します。また、休憩時間を無効にします。そして、ポモドーロの終了とともに、次のポモドーロを自動で開始するように設定します。
単位は好みに応じて変更するとよいですね。
プロジェクトを作る
まずは、プロジェクトを作成します。プロジェクト機能を利用すると、タスクを分類できます。あとで時間を振り返る時、プロジェクトごとにかかった時間を集計できたり、色分けして表示できます。
私の場合、neccoの仕事のタスクを管理するneccoプロジェクト、本を書くためのタスクを管理するBookプロジェクトなどを作成しました。
タスクを登録する
思い立った時、あるいは何かに取り組む直前に、タスクをプロジェクトごとに分けて登録します。プロジェクトを指定せずに登録すると、Tasksという万能プロジェクトに登録されます。
タスクには期限や優先度も設定でき、入力しておくとタスクを見渡しやすくなります。私は入力の手間を極力省きたいため、同じプロジェクト内でタスクが混み合っている時にのみ、頭を整理するために優先度を入力します。
現在は、すべての行動を記録しているわけではなく、例えばミーティングや外出などのタスクは登録していません。これらはGoogleカレンダーに記録しているので、そちらを見れば振り返れるからです。記録しても良いとは思います。
また、neccoのタスクに関しては、元々neccoのAsanaにて会社全体で管理しています。愚直に管理しようと思うと、AsanaとFocus To-Doの2つにタスクや期限を入力するような二重管理になってしまうため、neccoのタスクに関しては、取り組むときに、その都度、Focus To-Doに入力しています。
neccoのタスク管理はAsana、時間記録はFocus To-Doという使い分けです。
※Asanaにも時間計測機能がありますが、利用にはAdvanced以上のプランが必要です。
(オプション)タスクにかかる時間を見積もる
タスクにかかる時間を見積もり、入力しておけます。
見積もり時間は1ポモドーロ単位になりますので、30分かかりそうなら「1」、60分なら「2」と入力する形になります。
未完了のタスクの見積もり時間をプロジェクトごとに集計できるほか、タスクの作業中や完了時に、見積もりと実際の作業時間のズレを確認できます。
時間を計測する
タスクに取り組む時に、タスクの開始ボタンを押します。
タスクが終わったら、タスクの完了ボタンを押します。
…これだけです。
タスクを開始すると、アプリの画面に、実行しているタスクとポモドーロ時間のカウントダウンが表示されます。また、ステータスバーにも時間が表示されます。何か割り込みがあった場合などは、時間の計測を一時停止し、別のタスクを開始することもできます。
「実行しているタスク名が常に画面に表示される」ところも、私にとって重要な一つのポイントです。
私は、タスクの実行中に何か通知が入ったり、何か別のことを思い立ってしまうと、ついつい気がそれてしまいます。実行しているタスクが画面に表示されていることによって、「いま集中して取り組むべきことから、気がそれている」ことを自覚できます。
自分の振り返りのためのものなので厳格に記録する必要はありませんが、やはり本来やるべきタスクそっちのけになってしまっているのは良くないことですので、これができるのは強いです。
タスクが完了したら完了ボタンをチェックします。見積もりを入力していた場合は、見積もりと実際の作業時間の差も見比べられます。
タスクの開始を忘れてしまっても、スマホアプリを使うと、後から記録を追加できます。なぜかMac版アプリからは追加できないようです。
日々の記録を振り返る
記録ができたら、キリの良いところで振り返ります。
1日の終わりにでも、次の日の朝でも、多忙な時は週に1回でも。
日々の振り返りには、スマホやタブレット版の「1日のタイムライン表示」が便利です。
振り返ると、「気が重かったけど、実行したら意外と短時間で終わったな」「予定より時間がかかりすぎた」「何も進んでいないと思っていたけど、実は色々できていた」などの気づきがあります。また、いろんなプロジェクトに取り組めた日もあれば、単独のタスクに集中した日も出てきます。
また、時間記録をしていない空白の間、何をしていたか…仮眠していたとか、通販サイトに夢中になっていたとか、そういったことも、できれば思い出します。このように、空白時間が見えるようになることもポイントです。
その上で、何か、行動を起こした自分をねぎらってあげるようにしています。大人になると「頑張ったで賞」とは縁遠くなります。時間をかけた分だけ成果が出るとは限りませんが、世界でただ一人、自分ぐらいは毎日自分をねぎらってもバチは当たらないと思っています。
タイムライン表示をただ眺めるだけでももちろんOKですが、私は、このタイムライン表示のデータをデジタル日記に貼り付けています。その際に、その日に撮った写真や、外出なども一緒に記録しています。
長期的な記録を振り返る
気が向いた時に、週単位や月単位での集計も振り返ります。長期的な目線で振り返ると、曜日別での自分の行動パターンや、体調の上下によってタスク時間が増減しているのが見えてきます。夜間によくこの作業をしているなとか、この週は体調不良であまり稼働できなかった、など。
私は1年分のデジタル日記が溜まったら印刷しており、それらをパラパラみながら過去の日々を振り返ることもあります。
その他の便利機能
Focus To-Doには優先度づけ、期限設定、アラーム設定、繰り返し設定、サブタスクなど、タスク管理ツールに必要な機能が一通り揃っています。
私は期限設定と繰り返し設定をよく使います。
例えば「洗濯する」「干す」「取り込む」は毎日の繰り返しタスクとして設定しています。
猫の介護でも、1日に8回程度に分けて給餌や投薬をしていた頃は、タスクの期限、アラームや繰り返し設定を活用して、いつ飲ませたかを分かるようにでき、とても便利でした。何日に一度実行する、というようなタスク設定もできるので、2日に1度の輸液(点滴)を忘れずに実行できました。
おまけの機能として、完了したタスクの数などを競うランキング機能や、木を育てるミニゲームのようなものもあります。これらはiOS版にのみ存在しており、不要な場合は設定をオフにできます。
存在しない機能としては、時給計算機能がありません。また、見積もり時間と実際にかかった時間の自動集計などもありません。
Focus To-Doの欠点
愛用しているアプリですが、欠点もあります。Focus To-Doのデータ用サーバーが不調の時があるらしく、デバイス間同期ができない瞬間があります。また、MacでReportを開くと、Report画面がたまに閉じられなくなるバグがあります。
他のツールの選択肢について
私はタスク管理が好きで、これまでさまざまなアプリを試してきました。ここまで読んで「ちょっと自分には合わないな」と思った方向けに、Focus To-Do以外のおすすめの選択肢にも触れたいです。
時間を計測できるタスク管理ツールで一番有名なのはTogglで、無難な選択肢だと思います。私もFocus To-Doに乗り換える前はこのTogglを使っていました。こちらは時給計算もできるので、フリーランス時に時給の案件がある際にはよく利用していました。組織など複数人で利用することも考慮されている、ビジネス寄りのツールです。
Toggl: Time Tracking Software, Project Planning & Hiring Tools
時間計測をせず、個人のタスク管理(GTD)だけを行うなら、Thingsがお勧めです。タスク管理に必要な機能が一通り揃っていて、UIが美しく、使い心地が良いです。ただし、対応機器がMac / iOS / Apple Watchのみになってしまうのが難点です。
Things – To-Do List for Mac & iOS
仕事を前提とした、チームでのタスク管理なら、有名なツールですが、やはりAsanaもおすすめです。SlackやGitHub連携、APIも利用できるので、何かと便利です。UIも良いです。
チームの仕事、プロジェクト、タスクをオンライン管理 • Asana
また、私が個人で開発している kanau にも時間記録や時給計算の機能をつけています。
このアプリ内では時間の計測(開始/停止)はできないのですが、別のアプリやタイマーなどを使って計測した時間を、アイテムに入力し、時給として算出できます。
終わりに
私がタスク管理に目覚めたのは、高校生のころでした。アルバイトを始めた時に、A7サイズの小さなメモ帳に、色々なことをメモしていくようになったのがきっかけです。1冊のメモ帳とペンを肌身離さず持ち歩き、なんでもメモするようにしました。その中にはタスクも書き、終わったタスクには取り消し線を入れる、というシンプルな運用でした。
実は、それまでの私は、「忘れ物の女王」の名をほしいがままにする、なんでも忘れる、何も覚えられない子供でした。当時はそういった概念が一般的ではありませんでしたが、いまで言う、不注意優勢のADHD/ASDです(大人になったいまも性質は変わらないので、ストラテラを飲みながら仕事をしています)。
そんなダメダメな私の人生を変えてくれたのが、上記のタスク管理でした。「そもそもやるべきことを覚えておく必要はなく、書いておけばいい。いつでも読み返せばいい」というシンプルなルールを身につけられたことで、何かを忘れたままになることが劇的に減りました。それまでも連絡帳やノートに何かを書くことがあったのですが、何もかも忘れているから、それらを見返すきっかけがなかったんですよね。持ち運べる小さなメモに全部書くことで、見返すタイミングも増え、色々なことを思い出せるようになりました。私は時間感覚もあまりないので、デジタルカレンダーやアラームを活用しながら、どうにか一般的な生活を送れています。
タスク管理でどうにか働けるようになった私ですが、年齢を重ねると、タスクも複雑になり、やることが増えてきました。日々増殖するタスクに埋もれ、前に進んでいるのかもよく分からない毎日…そんな時に出会ったのが「時間記録」でした。自分の過去を振り返り、自分をねぎらい、充実感を手に入れつつ、やる気を引き出せるようになってきました。時間を見積もり、計測することによって、作業工数の見積もりなども正確さを増してきました。
時間記録にどハマりした当初は、何でもかんでも計測していましたが、いまはブームも落ち着いたので、ほどほどに計測しつつ、日々を送っています。
私の人生を良い方向に転換させた、偉大なる「タスク管理」、そして「時間記録」。生活や性格は人それぞれですので、合う合わないはあると思いますが、まずは、こんな手法もあることを知っていただけたなら、嬉しく思います。
佐藤 あゆみ
Ayumi Sato
ニューヨーク生まれ。まもなく東京に移住し、1994年から2年間のオーストラリアでの生活を経て、ふたたび東京へ戻り、今も暮らす。1997年頃より趣味としてWeb制作を始め、以後も独学で学ぶ。 音楽専門学校中退後、音楽活動での成功を夢見ながら、PCパーツショップやバイク輸出入会社、楽器店など、掛け持ち含めて計20以上(?)の業種でアルバイトを重ね、ECサイトの運営管理や自社サーバの管理、プログラミングなども学ぶ。音楽活動を展開する中で、集客やフライヤー制作、プロモーションビデオ制作を行い、周辺技術を身につけるきっかけとなるも、2011年頃に区切りをつけ、ウェブ制作で生計を立てることを決意。その後は画廊やウェブ制作会社などで勤め、2014〜2022年まではフリーランスとして活動。2018年より、CSS NiteやBAU-YAなどのイベント、スクールにて登壇。2019年に「HTMLコーダー&ウェブ担当者のためのWebページ高速化超入門」を出版。 趣味はガジェットいじり&新しいサービスを試すこと。