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秋田人形道祖神プロジェクト(ANP)ウェブサイト公開!【前編】 ANPのおふたりに聞いた「人形道祖神の魅力とは?」
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秋田人形道祖神のウェブサイト、ついに公開!
neccoがデザイン・実装・写真撮影・ディレクションなどを手がけた「秋田人形道祖神プロジェクト(ANP)」のウェブサイトが、公開となりました!
秋田人形道祖神ウェブサイトは
dosojin.jp
ANPのメンバーは、秋田県秋田市で工芸ギャラリーを営むかたわら郷土史研究をされている小松和彦さんと、神奈川県出身・秋田市在住のイラストレーター・宮原葉月さんの2名です。
2017年に結成されたばかりですが、翌2018年には書籍「村を守る不思議な神様 ~あきた人形道祖神めぐり~」を発刊。
各地でスライド&トークイベントを実施し、秋田県内はもちろん東京にも進出するなど、精力的に活動されています。
ANPの誕生秘話は、ウェブサイトに詳しく掲載されています。宮原さんの漫画がステキですので、ぜひご覧ください!
そもそも、人形道祖神って一体何だろう?
今回は、「秋田人形道祖神ウェブサイト公開記念ブログ【前編】」として、ANPのおふたりに秋田人形道祖神についての基本的な知識や取材でのエピソードなど、さまざまなお話をうかがいます。
小松 和彦
秋田市生まれ。青山学院大学文学部史学科卒。2006年から秋田市の工芸ギャラリー・小松クラフトスペース代表。共著に『秋田県の遊廓跡を歩く』(カストリ出版)、2017年から秋田魁新報電子版に郷土史コラム『新あきたよもやま』を連載。
宮原 葉月
神奈川県生まれ。2008年よりイラストレーターとして活動開始。 主な仕事として『ピンクとグレー』(加藤シゲアキ、Kadokawa、累計20万部超)、『服を買うなら、捨てなさい』シリーズ(地曳いく子、宝島社、累計40万部)、『蜜蜂と遠雷』(恩田陸、第156回直木賞、第14回本屋大賞受賞)など文芸作品の装丁や挿画、イラスト、銀座ソニービルの壁画、SONYのヘッドフォン等製品のイラスト制作、自殺予防ポスター(厚生労働省)、アパレルブランドとのコラボ商品などジャンルを問わない活躍も見せる。2017年から秋田市在住。
necco:まずは、人形道祖神とは一体何なのか、教えていただけますか?
小松:道祖神とは、疫病などの災いが村に入ってこないように祀られている民間信仰の神様のことです。
中国の道の神様である「道祖」と、村境を守る「塞の神(さいのかみ)」が一緒になったものが「道祖神」だと考えられています。
おもな目的は、村を守ること、そして旅の安全を守ること。
塞の神は、男性のシンボルのかたちで祀られることも多いんですよ。子孫が増える・子宝に恵まれる、という祈りもこめられているんです。
necco:道祖神は秋田以外にもあるんですか?
小松:はい、道祖神自体は東日本中心に多く、西日本にもあります。
石に文字を掘ったり、男女一対の神様を掘って表現したものがほとんどですね。
「人形道祖神」という言葉は、民俗学者の神野善治さんが命名した言葉です。
地域によって「ニンギョウサマ」「カシマサマ」「ショウキサマ」などと呼ばれていて、ワラで作ったもの、木を掘ったもの、お面だけのもの、自然の石にワラの笠をかぶせて人間に見立てたものもありますよ。
秋田の人形道祖神は、男女一対になっているものが多く、もっとも古い道祖神信仰を持っていると考えます。
書籍「村を守る不思議な神様 ~あきた人形道祖神めぐり~」の冒頭でご紹介した大館の道祖神や、山田のジンジョサマなどは、各町内に男女ペアの人形があるのですが、それは弥生時代の遺跡から出土する先祖の霊を祀った男女の神様にも似ているんです。稲作と共に大陸から入ってきた信仰にルーツがあるのかもしれません。
同じようなものが韓国や東南アジアにもありますよ。
necco:そうなんですか!日本独自のものだと思っていました。
おふたりは実際に現地へ道祖神を見に行ったり、取材をされていますが、人形道祖神のどんな魅力にひかれているのでしょうか?
宮原:私は小松さんのように民俗学に詳しくなく、取材に行くこと自体がはじめてで、行く場所もはじめてです。
「ここって、どんなところ?」「どんな人がいるの?」からはじまり、見るものも体験することも、すべてが新鮮なんです。
人形道祖神は年に一度か二度、村中の人が集まり、人形の「作り替え」の行事をするのですが、この日に立ち会ったことも何度かあります。
事前に作り方を聞いてはいたけれど、実際に見るとたくさんの発見があり、「これはどんな顔になるんだろう?」「手を外すとこんな風になるんだ!」と、本当におもしろいです。
だから、人形道祖神って、やめられないんですよね(笑)。
necco:宮原さんにとっては、夢中になれるものに「ついに出会ってしまった!」という感覚なんですね。
作り替えのお祭りがいちばんおもしろい!
necco:これまでに何カ所くらい人形道祖神を見に行きましたか?
宮原:見るだけの日もありますが、取材もふくめると100カ所は行きましたね。
小松:そうですね。1日で37カ所まわったこともあります。冬に行ったときには雪の中に埋もれていて、見られず残念でした。
necco:100カ所も!? おふたりはいつもどんな風に取材されるんですか?
小松:私と宮原さんとで役割が分かれているので、すごくやりやすいです。
〈宮原さんがイラスト・私が文章〉、〈女性・男性〉、〈神奈川出身・秋田出身〉、〈知らない・知っている〉、それに見ている視点も違うのでおもしろいですね。
自分と同じような民俗学に詳しい人が一緒だったら、お互い遠慮していたかもしれません。
村の人に私が質問する内容と、宮原さんが質問する内容が違うんですよ。
それに、男女で行くと、村の人も答えやすいみたいです。
宮原:取材の時間も、作り替えのときは朝7時くらいから始まるので、早朝に出発して夜に帰ってきますよね。
小松:このスケジュールは、よほど好きじゃないとキツイかもしれませんね(笑)。
necco:作り替えはお祭りなんですか?
小松:はい。村の人たちが当番の家に集まり、作り替えから宴会まで全ておこないます。
ある村では、4メートルの藁人形を骨組みから新しく組み立てるんです。
大の大人があんなおおきな人形を作るんですから、すごいですよね。
人形道祖神と村の人たちの関係が深く、“村を守るための神様”という意味を超えたものを感じます。
宮原:作り替えにしてもお祭りにしても、「日本にいたらこんな体験できない!」という強烈な出来事が起こります。
「次は何が起こるの?」という期待や衝撃が大きいので、私自身、ハマっているのかもしれません。
小松:私にとっての人形道祖神の魅力は、造形のおもしろさ、村人たちが行事に参加する姿、村の環境や歴史の違いなど、たくさんあります。
村が集団移転して、人形も一緒に移動したケースもあるんですよ。
民俗学というよりも、どちらかというとノンフィクションというジャンルですね。
現在進行形で人形を祀る村の姿を描きたい、という思いで取材しています。
萌える人形道祖神を、イラストで表現したい
necco:では、宮原さんにお聞きします。
宮原さんが描く人形道祖神のイラストは、実際の色と違ったり、造形そのものを変化させたり、とても個性的ですよね。
制作の根源には、どんなこだわりや思いがあるのでしょうか?
宮原:言葉にするのは難しいのですが、構想を練るときは一度ゼロにします。
もしそっくりに描いたとしたら、私ならではの個性やおもしろさが出ません。
まずはじめに、色も何もかも全てをフラットにしてから描いていきます。
necco:なるほど。たとえば、ポストカード写真(上)の中央にいる人形道祖神は、実物は腕がありませんよね。
腕を生やしたのはどうしてですか?
宮原:これは苦しまぎれに作ったんですよ(笑)。
はじめに描いたものを「これだけじゃ絵にならない!」と一度ボツにしたのですが、ある瞬間にアイデアが落ちてきて、腕をつけ足しました。これは偶然性が大きいですね。
それから、私は可愛いものが好きで、“愛を感じられる人形道祖神”を表現したいという思いが常にあります。
私にとって、イラストを制作するうえで“萌える”ことが大事なんです。
necco:何度もトライアンドエラーしながら最終成果物ができるんですね。
宮原さんが描く人形道祖神イラストは、可愛いらしさの中に宮原さんならではの独特な個性や、道祖神の不思議な魅力が表現されいて、とても素敵です。
色や柄はどうやって決めているんですか?
宮原:色は、実際に赤く塗られている人形道祖神には赤を使ったり、逆に全く使わないこともあります。
柄は、写真の一番左の岩崎なら、ひとつひとつのパーツはテキスタイルを参考にしたり、偶然性のバランスで生まれたものです。
書籍の刊行とトークショーイベントから見えたこと
necco:書籍「村を守る不思議な神様 ~あきた人形道祖神めぐり~」についてうかがいます。
これは、小松さんが文章を書き、宮原さんがイラストを担当したものですよね。
民俗学にアートを組み合わせた本は大変珍しいと思いますが、一冊目を出版されて、どんな反応がありましたか?
小松:びっくりするくらい反応がよく、いろんな人に買っていただき、ありがたいことに高い評価をいただきました。
これはマニアックな本なので、売れるのは厳しいだろうと思っていたんです。
だから、1,000部印刷するのもためらっていました。
内心自信はありましたが、内容が内容なだけに難しいかなと。人形道祖神って、みんな知らないですよね?
以前、遊郭の本を出したときにマニアの人が買ってくれましたが、今回ばかりはターゲットがわかりませんでした。
でも、トークショーを開催したら沢山の人が来てくれて、普段民俗学に興味がない人も「おもしろい」って言ってくれました。だから、これは攻めようと思ったんです。
necco:本を出してグッズを作り、トークショーも開催されていますが、一番伝えたいメッセージは何ですか?
これからどんなことを継続的に発信しようと考えていますか?
小松:人形道祖神を知っている人はまだまだ少なく、認知度が低い状況です。
なまはげにくらべると、圧倒的に知名度が低いんです。
でも、「なまはげと同じくらい秋田を代表する文化遺産だ!」と、私は思っています。
この人形道祖神のすばらしさをもっと発信し、「秋田といえば、なまはげとカシマサマとショウキサマだよね」というように、村を守る不思議な神様が秋田ならではのユニークな文化だということを、多くの人に知ってもらいたい。
人形道祖神がきっかけで秋田に訪れる人が増えれば、消えゆくものが残り、村では後継者が出てくるかもしれません。
そういった面から地域の力になれればいいと思っています。
宮原:知れば知るほど深みにハマっていく人形道祖神の魅力を、秋田県外の人にも味わってもらいたいですね。
それから、地域のご老人が元気なうちに話を聞いておきたいという思いもあります。
書籍続編で紹介しますが、人形道祖神の取材をした村のカリスマ的なおじいさんが、その後亡くなってしまいました。
今じゃないと聞けない話をもっともっと聞いて、それをたくさんの人に伝えていけたら、と思っています。
necco:では最後に、今後の展望を教えていただけますか?
小松:書籍続編を刊行して、各地でトークショーをやりたいですね。全国にファンをつくりたいです。
宮原:人形道祖神ツアーを実施したり、グッズもどんどん増やして、「秋田カッコイイよね」って思ってもらえたらいいですよね。
小松:宮原さんの力ってすごく大きいですよね。
人形道祖神自体もすごくカッコイイですが、宮原さんの感性やアートをプラスすることで新しいものができます。
宮原さんのイラストを中心にアイテムを増やして、ブランド化して、それを秋田から発信していきたいです。
宮原:以前、湯沢市岩崎でトークショーを開催したときに、地元のおじいちゃんおばあちゃんも参加してくれて、真剣に話を聞いてくれました。
人形道祖神は年代問わず興味を持ってくれるということがわかったので、秋田だけでなく東京も巻き込み、海外にまで道祖神を持って行けたらいいな。
小松:人形づくりができる人は高齢者の方が多く、後継者が少ない地域が多い状況です。
つまり、これから消える可能性が高いということ。
復活した例もありますが、減っていく方が圧倒的に多く、人がまずいなくなっていく。
だから今やるべきだと思っています。
necco:ありがとうございました。これからもおふたりの活動、応援していきます!
書籍「村を守る不思議な神様」続編の刊行にむけ、クラウドファンディングに挑戦中!
ANPのおふたりは現在、書籍続編「村を守る不思議な神様2」の刊行にむけてクラウドファンディングに挑戦中です。
支援された方には、リターン品として、写真(上)の人形道祖神オリジナルTシャツや、写真(下)のトートバッグ、手ぬぐいなどが金額に応じて送られます。
さらに、人形道祖神写真集がリターン品に追加されたそうです!
https://twitter.com/Komatsucraft/status/1126045853896994816
クラウドファンディングの期限は、2019年5月31日(金)まで。
みなさんのご支援、ぜひよろしくお願いいたします!
「秋田人形道祖神ウェブサイト公開記念ブログ【後編】」では、サイトデザイン・実装・撮影の裏側をご紹介する予定です。お楽しみに!
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(2024年10月時点)
夏井 ひとみ
Hitomi Natsui
宮城県生まれ。 大学卒業後、仙台の広告代理店にて週刊フリーペーパーの取材・編集・ライティング、企業のイベント企画・プロモーション提案などに従事。その後、住宅会社の広報スタッフを経て2014年に秋田県へ。ウェブサイト、パンフレット、商品パッケージデザインなど、さまざまな制作物におけるディレクション・編集・取材・ライティングを幅広く経験。 2017年よりneccoに参画。好きなものはガンダム、花、鳥、写真、歌うこと。似ているキャラクターはニコロビン、メーテル、エボシ御前。こけしにも似ている。